V-RaySSSの種類
V-Ray のサブサーフェススキャッタリングを理解して使用し、息を呑むほどリアルなレンダリングを実現するために最適化してください。
3D アーティストとして、私たちは常に完璧なレンダリングを目指して努力しています。フォトリアリズムを実現するには、光がオブジェクトと相互作用する方法を理解することが重要です。表面下散乱 (SSS) と呼ばれる概念では、一部の物体は光の大部分を反射しますが、他の物体は光を吸収し、別の点で光を通過させます。この記事ではV-RayのSSSの詳細を調査し、それを V-Rayで使用してリアルなレンダリングを作成する方法を学びます。
SSSの背後にある科学
SSSは、光がミルクや樹木の葉、人間の皮膚等の半透明の物質を通過し、吸収、散乱、再放射されるときに発生します。
この概念をよりよく理解するには、光に手をかざすと、その周りに赤っぽい透過光があり、静脈、毛穴、ひだ、しわが照らされているのがわかります。皮膚は SSS 現象の最も大きな例の1つであり、光の10%未満が表面で直接反射され、残りは表面下散乱によって表面の下で散乱されます。3DCGではSSSが適用されていない場合、紙、ワックス、大理石、皮膚などの半透明のオブジェクトは不透明な物体に見え、フォトリアリズムに欠けます。
SSSシェーダとツール
V-Rayは、SSSを表現するための完全なツールセットを複数提供しています。以下で詳しく見てみましょう。
物理的なサブサーフェス・スキャッタリングシェーダー
究極の精度を必要とするケースの為に、V-Ray マテリアルには、現実世界の光の動作を厳密に模倣するブルートフォースによるランダムウォークアプローチによるSSSが含まれています。この方式は vrayScatterVolumeシェーダとほぼ同じですが、単一レイヤー型のvrayScatterVolumeシェーダーと異なりV-Rayマテリアルのシェーディングレイヤーと適切に統合されています。
両方のシェーダで利用可能なさまざまなモードにより、望ましい結果に応じて、優れた柔軟性とリソースの割り当てが可能になります。薄い液体から濃いアラバスター(白色の鉱物)まで、すべてを正確にシミュレートできます。
ルックデベロップメントの為の高速シェーダー
精度を若干犠牲にして、迅速なルックを実現するために、V-Rayは業界で有名なALShaderも提供しています。ALShaderは、肌やその他の複雑な多層SSSマテリアルのシミュレーションを迅速にセットアップするのに最適な高速シェーダです。またこのシェーダーはブルートフォース・ランダム ウォークに基づいており、見た目と速度に対するユーザーのニーズによりよく適合する方向性と拡散プロファイルを提供します。
レンダリングに関する考慮事項
これらのシェーダが最高の状態で動作するには、ユーザーはライティング、グローバルイルミネーション、および補助ジオメトリ (ブドウの中の種子など) を完全に考慮する必要があります。
速度最適化SSS: VRayFastSSS シェーダー
最後に vrayFastSSSシェーダは、独創的な Jensenアプローチを使用して、サブサーフェス・スキャッタリングを迅速に計算します。 (2001 年のJensen氏の論文を参照)。このシェーダーにグローバルイルミネーションは必要ありませんし、シェーダのサーフェスの下にあるジオメトリも考慮しませんが、濃い液体、植物一般、さらにはカメラから遠距離にあるキャラクターにおける表面下散乱の非常に説得力のある近似値を計算できます。
SSSの成分
SSSは、光がマテリアルの内部とどのように相互作用するかに基づいて、さまざまなコンポーネントに分類できます。これらの相互作用によって、柔らかさ、深み、色のにじみ、光の指向性、半透明性が決まります。一部のマテリアルは特定の効果に適していますが、以下の比較に示されている人間の顔の皮膚のように、1種類のマテリアルだけを使用して全てのSSSの成分を試すことができます。
前方散乱
前方散乱は、光が物体に入射し、元の光線と同じ方向に進み続けるときに発生します。これは、葉や皮膚などの薄いまたはわずかに半透明の素材に典型的なもので、光が表面とは反対側から出ます。
後方散乱
後方散乱は、光が物体の表面に入射し来た方向に向かって反射される際に発生します。これは表面の下で光が無秩序に飛び跳ねる、高密度またはより複雑なマテリアルでより一般的です。”人間の頬の光に照らされた側の微妙な柔らかさ” や “ヨーグルトのクリーミーな外観”を想像してください。
V-RayマテリアルのSSS 特性とその用途
良いSSS表現は、単純にマテリアルを設定すれば良いという訳ではなく、用途に合わせたSSSマテリアルの選択、オブジェクトのプロパティ (オブジェクトのサイズ、SSS層の厚さの変化、内部構造、曲率など)、および照明条件の組み合わせから得られます。
シェーダはこれらの相互作用を制御します。以下に、V-Rayで利用できるSSSをシミュレートする為に使用できるいくつかの V-Ray シェーダの特性を示します。
シェーダー名 | 利用可能 | 特徴 |
---|---|---|
VRayMtl | 3ds Max, Maya, Blender, Cinema 4D, Rhino, SketchUp, Houdini, Revit | ・あらゆる種類のシェーダー効果を再現できるユニバーサルシェーダー(その代わり特定の目的の為のSSS表現は遅め) ・SSS をシミュレートできる半透明レイヤーを備えています ・ソリッドオブジェクト (皮膚、ワックス、食べ物、大理石、プラスチックなど) および 液体の SSS をシミュレートできます。 ・紙や木の葉など、厚みのないオブジェクトの適切な半透明性をシミュレートできる「薄壁モード」があります ・マテリアルをブレンドする必要なくレイヤー (コート、自己照明) を利用できます |
VRayFastSSS2 | 3ds Max, Maya, Blender, Cinema 4D, Rhino, SketchUp | ・トランスルーセントな表現に関しては VRayMtlよりも高速ですが、近似SSSな為品質は低くなります – 液体や背景オブジェクト等の単純な SSS に最適です ・あらゆる種類のSSSシェーダに適しています ・ブレンドマテリアルで複数のSSSレイヤーを重ねたり、複数の反射レイヤーを追加したりするために使用できます。 |
VRayAlSurface | 3ds Max, Maya, Cinema 4D, Blender, Houdini | ・主にキャラクターのスキン表現に最適です。 ・皮膚層(表面の色、表面下の筋肉、静脈など)をシミュレートする為の正確な制御を備えた3つのSSSレイヤーを持っています ・光沢度(glossiness)の低いベースと光沢度の高い皮脂・汗用の2層の反射層を持っています。 |
VRayScatterVolume | 3ds Max, Blender, Cinema 4D | ・このシェーダーは、ブルートフォース型ランダムウォークSSSの初期実装として同梱された歴史があります。(後にV-RayMtlに統合) ・V-RayMtlのSSSレイヤーだけを独立させた物で正確なSSSを計算します。通常、ブレンドマテリアルを使用してバンプや反射などの他のレイヤーと組み合わせて使用されます。氷の塊のようなものを作成できます |
VRay2SidedMtl | 3ds Max, Maya, Blender, Cinema 4D, Rhino, SketchUp, Houdini, Revit | ・このシェーダーはSSSではなく、背面側のシェーディングを表面側にブレンド表示する近似シェーダーです ・木の葉、紙、布など、裏面に光が当たるような薄い物体に最適です ・サーフェスの表裏への異なるマテリアルの割り当てをサポートしています。両面葉っぱ、布地、本のページなどの効果に最適です ・VRayMtlの薄壁オプションを使用して同様の半透明の外観を実現できる場合がありますが、2SidedMtlは閉じたボリュームのあるメッシュではなく、オープンサーフェス(片面ポリゴン)でのみ使用できます |
ボリューメトリックスキャッタリング (VRayMtl)
翡翠/大理石のドラゴン
・オブジェクトに標準のVRayマテリアルを適用します。
・(屈折セクションにある)IORを1.6から1.3に設定することで、少しだけ反射率を与えることができます。 (屈折のIORで反射率が調整できる事は覚えておきましょう)
・屈折色を白に設定しましょう。これでDiffuseレイヤーを透明になり、サーフェス内部に光の進入が有効になります。
・次に半透明性を選択します。ボリューメトリックにセットしましょう。
・”フォグカラー”と”深さ(cm)”をいじることで、マテリアル全体の色や柔らかさを調整できます。”スキャッターカラー”を使用して、スキャッターの色を設定できます。
- VRayMtlによるピンクの翡翠/大理石のドラゴン
- VRayMtlによるピンクの翡翠/大理石のドラゴン設定
- VRayMtlによる緑の翡翠/大理石のドラゴン
- VRayMtlによる緑の翡翠/大理石のドラゴン設定
VRayFastSSS2 の例
蝋燭
・VRayFastSSS2 をオブジェクトに適用します。このシェーダーは簡易的な 肌、ワックス、大理石、その他のオーガニックな半透過マテリアル表現に最適です。
・蝋燭のテリアルを作成するために、”表面下の色”と”スキャッターカラー”を変更します。例えば、”表面下の色”をやや白めの黄色に設定できます。これがキャンドルのメインの色になります。そして、スキャッターカラーをオレンジに設定します。これは、キャンドル ジオメトリの薄い部分に表示されます。これでキャンドルの炎の周りがよりオレンジ色に見えます。
・次に散乱半径(cm)パラメータをいじってみましょう。蝋燭の場合、光を表面の下でより深く散乱させることが望ましいため 2 cm 程で十分です。オブジェクトの厚み、サイズでこの値は調整してください。オブジェクトを実スケールで作成する事が重要です。
・最後に、ワックスの様なマテリアルを作成するには、より前方散乱(光が表面から後方に抜けて行く)のアプローチが必要なので、それを考慮して位相関数を 0.8 に設定しましょう。
- VRayFastSSS2による蝋燭SSS
- VRayFastSSS2による蝋燭SSS設定
VrayAlSurface の例
人物のクローズアップ
・VRayAlSurfaceをオブジェクトに適用します。このシェーダーは特に人間やキャラクターのリアルな肌向けに設計されています。
・マテリアル全体の見た目のディフューズ(拡散)カラーを設定します。それはフラット カラーまたはテクスチャ マップである可能性があります。この例では、テクスチャマップが使用されました。
・”SSSミックス”パラメータを1.0に設定して、サブサーフェススキャッタリングの効果を可視化してください。
・3つのSSSレイヤーのパラメーターとカラーを試して、好みのスキンタイプを実現できます。デフォルト値でもかなり良い結果が得られます。
・法線マップまたはバンプがある場合は、それを接続してマテリアルにさらなる詳細レベルを与えることもできます。
・最後に、反射1と2の反射のラフネスパラメータをいじってベースの鈍いスペキュラーと皮脂による鋭いスペキュラーを調整できます。
- VrayAlSurfaceによる人間の皮膚のクローズアップ
- VrayAlSurfaceによる人間の皮膚の設定
VRayFastSSS2 の例その2
前方/後方/等方 散乱
・VRayFastSSS2でキャラクタースキンのSSSを近似できます。
・キャラクターに VRayFastSSS2 を割り当てます。
・全体のカラーにベースカラーやテクスチャを設定します。
・スキャッターカラーをいじって、マテリアルの表面下散乱の色を調整できます。これは主にオブジェクトの薄い部分に表示されます。 (キャラクターの耳など)。
・散乱半径(cm)パラメータを調整する事で、マテリアル内部の散乱光の深さを制御できます。
・最後に、位相関数(フェーズファンクション)パラメータを使用して、光の散乱方法を切り替えることができます。位相関数パラメータが 0 に設定されている場合、これは等方性散乱と呼ばれます。これは、光が全方向に均一に散乱することを意味します (例01の画像を参照)。値が -1.0 の場合後方散乱になります。この条件では、ほとんどの光は進入した表面に戻る様に散乱します (例02の画像を参照)。最後に、値 1.0 は前方散乱になります。この条件では、光は主に前方方向に散乱します (画像 03 の例を参照)。
- VRayFastSSS2による前ぽ散乱の設定
- VRayFastSSS2による後方散乱
- VRayFastSSS2による後方散乱の設定
- VRayFastSSS2による等方散乱
- VRayFastSSS2による等方散乱の設定
VRayScatterVolume の例
透明度の低い氷
・VRayScatterVolume マテリアルはブルートフォース型ランダムウォークSSSシェーダーです。 VRayBlendMtl のベースマテリアルとして使用すると、ランダムウォークSSSベースを備えた複雑なマテリアルを作成できます。たとえば、透明度の低い氷のマテリアルを作成できます。
・ベースとなる全体のカラーを設定する必要があります。ライトブルーを選んでみましょう。
・次に、目的の結果が得られるまで、表面化の色とスキャッターカラーを試してみましょう。
・光が表面の下でどれだけ深く散乱するかを制御するために、散乱半径パラメータも実験する必要があります。
・最後に位相関数(フェーズファンクション)パラメータを調整します。氷を作成するには、位相関数パラメータを 0.15 に設定して、前方散乱をわずかに優先することができます。
- VRayScatterVolumeによるボリュームSSS
- VRayScatterVolumeによるボリュームSSSの設定
- VRayScatterVolumeによるボリュームSSSのシェーターツリー
VRay2SidedMtlの例
落ち葉
・VRay2SidedMtlマテリアルは紙や葉っぱ、カーテン等の薄いオブジェクトの透過を表現する近似シェーダーです
・開いているオブジェクト(片面ポリゴン)のオブジェクトを用意します。(VRay2SidedMtlマテリアルは厚みのあるオブジェクト(閉じているオブジェクト)では使用できません)
・このオブジェクトにVRay2SidedMtlを割り当てます。
・正面のマテリアルに VRayMtlで作成した落ち葉のマテリアルを接続します。
・背面マテリアルに何も接続しない場合、サーフェスの表と裏両方に、正面のマテリアルが使われます。
・半透明性に、透過の強さを調整するマップを割り当てます。このマップの明度で半透過の強さがコントロールできます。
- VRay2SidedMtlによる葉の透過光設定
- VRay2SidedMtlによる葉の透過光
ユーザー事例
デジタルポートレートと人物デザイン
SSSの動作の優れた例は、バックライトに照らされた耳の部分が透けて見える様子であり、SSSマテリアルは光がこれらの領域をどのように透過および散乱するかを明らかにします。V-RayのSSSマテリアルは、驚くべきレベルのリアリズムを生み出す能力があるため、デジタル ポートレートやキャラクター デザインで本物のような肌のテクスチャをより詳細に作成するための非常に貴重な技術であることがよくわかります。
ゲームのレンダリングと没入型環境
SSSはプレーヤーを世界に引き込み、キャラクターが本当に生きていると感じさせる没入型環境を作成するために、ゲームのレンダリングソフトウェアで一般的に使用されます。
広告における製品のビジュアライズ
SSSは製品のビジュアライズ、特に化粧品や食品の広告にも使われています。 スキンクリーム、ローション、ジェルに、豊かさと若々しさを呼び起こす柔らかで透明感を与えることで、その見た目を向上させます。食品を視覚化するためにレンダリングソフトウェアを使用する場合、SSSは、キャンディー、新鮮な果物、あらゆる種類の飲料などのアイテムに高レベルのフォトリアリズムを追加し、表面の下で光が微妙に散乱する様子をシミュレートし、より食欲をそそるように見せます。
事例紹介:木造の都市プロジェクト
木造の都市プロジェクトは、V-Ray における SSS の優れたケーススタディとしてだけでなく、3Dビジュアライゼーションが伝えることができる強力な社会的影響も実証しています。 NGO ロビン・ウッドの広告であるこのプロジェクトは、都市化に取り組み、ニューヨーク市よりも広い森林面積が毎日失われていることを強調することで森林破壊の驚くべき速度に注目を集めています。PX Groupのチームは、V-RayFast SSS2マテリアルを利用して、リアルな木材の外観を忠実に再現しました。
課題と最適化
SSSは、重なり合う面、閉じられていないソリッドオブジェクト (穴、接続していない頂点など)、厚さの欠如、不正確なスケーリングなどの問題により、結果が大きく異なってしまう場合がある事に留意することが重要です。そうならないように、プロジェクトに取り組むときは焦らないようにしてください。注意深く観察し、実スケールである事を確かめ、オブジェクトの不規則性を見つけたら修正し、ジオメトリがきれいなトポロジーであることを確認します。
締めくくりに
SSSは、レンダリングにさらなるレベルのフォトリアリズムを追加するための優れたツールです。光の物理的特性と、光がそれぞれの固有のオブジェクトと相互作用する方法を考慮して、オブジェクトがプラスチックのように見えるのを防ぎ、シーンのリアルな表現を作成します。 V-Rayの様々なSSSシェーダを実験して試し、どれがワークフローに最適に組み込まれるかを検討することをお勧めします。


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